非天マザー by B-CHAN

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英国フィナンシャル・タイムズのAppStoreからの撤退に見るAppleの苦しさとHTML5の話

AppStore縛りからの脱出


こんなニュースが流れました。


英FT、アップストアでのアプリ提供から撤退


このニュース、何が重大なのか、コンピューターに詳しくない人にわかるように書いてみます。
これまで、フィナンシャル・タイムズ(FT)はiPhoneとiPad向けにアプリを配信していました。
これによってiPhoneやiPadユーザーはFTの記事を読むことができていました。
問題の引き金は課金方法でした。一般的にはユーザーから課金するためには、各企業が自前の課金システムを持つか、あるいは課金システムのあるショッピングモールに参加するか、大きくこの2つが考えられます。
前者の例で言えば、例えばUNIQLOやセブンイレブンなどは自前のサイトを持っていて、そこでネットショッピングを完結できます。
後者で有名なのは楽天ですよね。いろんな出店者は自前で課金システムを持たなくても、楽天市場に出店すればその課金システムを利用できるわけです。
そしてAppleのAppStoreもまた楽天と同じで、個々のアプリ開発者が課金システムを持たなくても、AppStoreに登録するだけでアプリに課金することができるわけです。それによってアプリ開発者は余計な負担無しにアプリ開発に専念できるわけです。
その代わり後者のシステムでは出店者やアプリ開発者はショッピングモール側に利用料を払う必要があるわけです。AppStoreの場合、アプリ販売額の30%がApple社に徴収されます。
さて、FTはこれまで、アプリ自体はAppStoreで配信していましたが、課金システムは自前のモノを使っていました。
つまり、アプリ内で有料の記事を読みたいユーザーはFTのWebサイトに行き、そこで会員登録をして料金を支払えば、アプリ内で有料記事を読める仕組みになっていたわけです。
こうすることで、AppStoreの課金システムを使わずに済みますから、FT側は販売額のすべてを獲得することができます。
逆に言えば、Apple社にしてみれば、いくらFTの有料記事が売れても1円も入ってこないことになります。
そこで、Appleは規定を強化しました。
つまり、アプリ内で各社の自前の課金システムに誘導する仕組みを禁止し、アプリ内での記事の購入も必ずAppStoreを通すようにしてしまいました。
そうなるとFTにしてみれば、今までと同じ売上高でも手取りが30%も減ることになってしまいます。
企業にとって30%の減収は経営に関わる大きな数字です。
結局、FTはAppStoreからの撤退を決断したわけです。
しかし、単に撤退したのでは、それまでのユーザーを失うことになります。
iPhoneやiPadのユーザーは無視できないほど多いので、引き続きそれらの人々に読んでもらう必要があります。
そこでFTはWebアプリという形でリリースすることにしたのです。
Webアプリとは何かについては、先日書きましたので、こちらを読んでください。


最速iPhoneアプリ制作術…iPhoneのアプリを作る簡単な方のやり方を書いた書籍


iPhoneにインストールするアプリのことをネイティブアプリと呼びます。
そして、ネイティブアプリを配信するには必ずAppStoreを通す必要があります。
AppStoreを通さないでiPhoneでアプリを使ってもらうためにはネイティブアプリをやめてWebアプリにする必要があります。
WebアプリはWebブラウザ上で動くので、WebブラウザさえあればパソコンでもAndroidでも機種を問わず使えます。iPhoneでももちろん使用できるわけです。
Webアプリの場合はAppStoreは無関係ですから、課金システムは自前で持つ必要がありますが、FTは元々自前で持っていたわけですから、その点も問題ありません。
こうやってFTはAppStoreの束縛から逃れつつ、iPhoneやiPadのユーザーも引き続き読者として確保できるわけです。
Webアプリは基本的に、HTMLという言語とJavaScriptと呼ばれる言語を組み合わせて作られることが多いです。
ただ、HTMLはもともとプログラムを組むための言語ではありませんから、ネイティブアプリに匹敵するような複雑な動作をするアプリを作るのは難しいです。
ところが、現在、AppleやGoogleなどが中心となって、HTML5という次世代のHTMLが策定されつつあります。現在主流のHTML4に比べて大幅に高機能化していて、ある程度複雑な動作も比較的簡単に実現できるようになっています。
こうなってくると、AppStoreの束縛から逃れたいアプリ開発者がネイティブアプリをやめてWebアプリに流れていく事も考えられるわけです。
そうするとAppleはアプリの売り上げの30%をインセンティブとして得ることができなくなってしまいます。
もちろん、個々のアプリ開発者が課金システムを構築するのは大変ですが、ある程度の大手企業であれば問題ないと思います。
Appleにしてみれば、自らが推進しているHTML5の高機能化により、AppStoreに頼らないアプリを作りやすくする環境を与えることになり、AppStoreの経営面から見れば、首を絞めかねない状況です。
著名なメディアでアルFTが今回こうした措置を採ったことにより、影響を受ける動きもあるでしょう。
GoogleのAndroidにシェアを奪われつつあるApple陣営として、引き続き同じ規定で臨むのか、それともよりアプリ開発者が参加しやすい土壌を築くのか。
これまでは絶好調のAppleですが、このあたりの判断は、今後の業績への大きな試金石になりそうな気がします。