小切手
久しぶりに金融関係ネタ。
ボクは昔、銀行で働いていました。
銀行と言っても信託銀行(今の三井住友信託銀行)だったので、業務範囲はとても広いのですが、最初は普通の支店業務をしていました。
いわゆる、預金とかローンとか。
当時もあまり目にすることは無かったんですが、小切手の話をしてみます。
小切手。見たこと、ありますか?
普通の個人はあまり見る機会が無いですよね。
余計なことを省略してカンタンに描くと小切手って、こんな感じです。
小切手は、実は、現金とほぼ同じ価値があります。
例えば、1万円札を道で拾ったとします。
お札には名前が書かれていないので、誰のモノかは普通はわかりません。
交番に届けても、落とし主が現れなければ、いずれそれは拾った人のモノになります。
小切手も似たようなところがあって、所有者の名前って書かれていないんですよね。
振出人(ふりだしにん)と言うのは、小切手を発行した人です。この人が100万円を負担するんですね。
例えば、AさんがBさんからクルマを100万円で買った場合。
Aさんが上記の小切手の振出人となり、Bさんにその小切手をあげれば、Aさんは100万円を負担します。AさんはBさんに小切手でクルマ代の100万円を払ったんですね。
Bさんは、その小切手を銀行に持って行けば、100万円がもらえます。
上記の例で言えば、100万円の小切手は「100万円札」とでも呼べばわかりやすいですね。
なぜ小切手が存在するのか。
まあ理由のひとつは、札束より運搬がラクだからですね。
100万円程度なら札束でも軽いですが、1億円の支払を現金で行うとなると大変です。
バッグを持ち運ぶことになります。
なら、小切手に、
¥100,000,000※
と書いて渡せば、1億円を紙1枚で支払ったことになります。
受け取る人も持ち運びがラクです。
あとはそれを銀行に持って行けば1億円の現金に換えてくれます。
逆に、紙1枚なので、紛失のリスクがありますよね。
線引小切手
1億円の現金だと、ずっしりと重いバッグなので、紛失しにくいです。
奪い去れるほど軽くもありません。
しかし、小切手なら紙1枚なので、紛失やら盗難も容易です。
運びやすいメリットと、運ばれやすいデメリットが同居するのが小切手です。
そこで、紛失や盗難のリスクに対応できる方法があります。
それが線引(せんびき)と言う方法です。
次の図をさっきの小切手と見比べてみてください。
左上に2本線があり、間に「銀行」と書かれています。
これを線引小切手と言います。
この線引小切手を銀行に持って行っても、いきなり現金1億円と交換してくれません。
その人の銀行口座に入金されるのです。
例えば、Aさんが振出人でBさんにこの線引小切手を渡したとしましょう。
そしてBさんがそれを紛失し、Cさんが拾ったとします。
小切手は、普通のおカネと同じで、Bさんが受け取るべきことは書かれていないので、持っている人が事実上の所有者となってしまいます。
つまり、Cさんが、「しめしめ」と思って、銀行に持って行けば、1億円を丸儲け。
もちろん悪いことですが、銀行は、小切手の真の所有者なんてわからないので、持参人であるCさんに払うしか無いのです。
ところが、線引小切手の場合、Cさんが銀行に持ち込んでも、銀行はCさんに現金1億円を渡さず、いったん、Cさんの銀行口座に入金します。
現金なら、そのままCさんが1億円を持って帰ってしまえば、それで終わりです。
Cさんによるネコババであっても、どうしようもありません。
しかし、線引小切手なら、いったんCさんの口座に入金、つまり、Cさんが1億円を受け取ったことが記録として残ります。
なぜなら、銀行口座の名義人は銀行が本人確認を行っているからです。
あとになって、これがCさんによるネコババであることがわかった場合、当然、Cさんの悪事が判明しますよね。
現金では無く、いったん、銀行口座を通すことで、犯罪を防ぎやすいメリットがあるわけです。
線引小切手にしておくことで、現実的には、紛失しても、他人がネコババするのは困難になります。
ところで、線引きは、所持者が自由に書き込むことができます。
例えば、あなたが誰かから線引きの無い普通の小切手をもらった場合。
紛失時のリスクを減らすために、自分で、2本線を書いてしまいましょう。そして、2本線の間に、
銀行
と書くのです。これでOK。
別に左上じゃなくても右の方でも大丈夫。特に細かい規定は無いので。
こうしておけば、万が一、その小切手を紛失しても、小切手を拾った別人が、その金額を現金で受け取ってしまうリスクは無くなります。
と言うわけで、今回は久しぶりに、元銀行員らしい記事を書いてみましたよ。