カメラの画質を決めるレンズ
先日、デジカメの画素数は多い方が高画質とは限らない、むしろ画質が悪化することもある、ということを書きました。
こちらの記事です。
忘れた人はもう一度読んでくださいませ。
携帯電話やiPhoneのカメラの画素数について(画素数が多いほど高画質だと思っている人へ) その1
さて、今回は、その続きです。
前回の話は、簡単に言えば、撮像素子(CCDとかCMOS)のサイズがものすごく小さいのに、画素数を増やしてしまうと、一つ一つの画素、つまり一つ一つのセンサーがとんでもなく小さくなり、性能がものすごく下がるので、結果としてできあがる画像は低い画質になる、ということでした。
今回は、撮像素子ではなく、レンズのお話です。
撮影する対象物を撮像素子に届けるためには、必ずレンズを通す必要があります。
そして、このレンズの性能も画質に大きく影響するというお話です。
話をわかりやすくするために、ちょっと極端な例で書いてみます。
部屋の中から外の景色を見るときに、大きな窓ガラスを通して見るのと、玄関ドアにあるのぞき窓を通して見るのとでは、どちらがしっかり見えるでしょうか?
もちろん前者ですよね。
大きくてクリアなガラスの方が当然、くっきり見えるわけです。
ちょっとイラストを作ってみました。
このイラストでは、「山海川」という文字を2種類のレンズを通して撮像素子に写す様子を表しています。
上の高画質レンズでは、文字はくっきりと正確に撮像素子に反映されています。
一方、下の低画質レンズでは、文字は正確に撮像素子に反映されません。
さて、この高画質レンズと低画質レンズ、違いは大きく2つあります。
一つは面積。もう一つは、ガラスそのもののクリアさです。
前回にも書いたように、高画質を実現するためには光量が多い方が有利です。そういう意味では面積の大きなレンズの方が有利です。
一方、ガラスのクリアさというのはわかりにくいですが、要するに透明性の高いガラスかぼやけたガラスかということです。
すりガラスだと極端すぎますが、透明性が高いほどくっきりと映像が透過するのは想像に難くないと思います。
さて、これら高画質レンズと低画質レンズ、実際にはどういう場面に使われているでしょうか。
相対的な話ではありますが、答えは明快です。
高画質レンズは一眼カメラに、低画質レンズは携帯電話に使われています。
このブログでは主に携帯電話やスマートフォンの話を扱っていますので、一眼カメラの話は置いておいて、今回も携帯電話の話をします。
最近の携帯電話では1000万画素を超えるカメラが搭載されていますが、これがどういう弊害を生むのか?
前回の記事では、撮像素子の性能の低下の話を書いたことはすでに述べました。
今回はレンズを通した画像と撮像素子の関係を書きます。
次のイラストを見てください。
話を簡単にするために、絵も数字もできるだけ簡略化してあります。
まず、上のイラストの一番左にあるのは日の丸だと思ってください。白地に赤い丸があります。
これを低性能なレンズを通して見た画像が真ん中にあります。
左のオリジナルに比べてずいぶん簡略化されてしまっています。これが低性能なレンズの弊害です。
そして、その簡略化されてしまった画像が撮像素子に記録されるわけです。それが右端の絵です。
上の段にあるのは16画素の撮像素子、下の段にあるのは64画素の撮像素子です。
画素数だけを見れば下の撮像素子の方が画素数が多いですよね。
ところが、そこに届く画像は低性能なレンズによってすでに低画質化してしまっています。
つまり、下の段では、せっかく撮像素子が64画素もあるのに、そこに記録される画像は16画素程度の画質しかないわけです。
逆の言い方をすれば、たかだか16画素程度の画像をわざわざ64画素の撮像素子に記録しているわけです。
上の撮像素子で記録された画像も下の撮像素子で記録された画像も、再生すると同じレベルの画像なのに、保存するデータ量は下の撮像素子では4倍にもなるわけです。
まったくもって無駄なことです。
話を簡単にするために16とか64とかと言った簡単な数字を使いましたが、現在の1000万画素を超える携帯電話のカメラというのは、まさにこの状態を示しています。
つまり、実際には1000万画素に匹敵する画質が無いにもかかわらず、1000万画素以上の巨大な画素数で保存するため、データ容量が非常に巨大になり、それによって携帯電話で保存したり再生したりするときの動作もノロノロになっているわけです。
データが巨大で動作がノロノロな割には見れる画像はそんなに高画質ではない、そんな現象が起こってしまっているわけです。
前回の記事でも書いた通り、一部のデジカメの最新機種では画質を上げるために旧機種よりも画素数を減らしています。
また、iPhoneなどでも、あえて画素数を500万画素程度に抑えています。
それは、どうせ1000万画素を超えるカメラを搭載しても1000万画素の画質は得られないわけですから、それならば、500万画素に抑えて画質を確保しつつデータ容量も抑えて動作を俊敏にするという狙いがあります。
実際に1000万画素を超えるカメラの携帯電話とiPhoneのカメラ周りの動作の俊敏性を比べるとわかると思います。
iPhoneの写真の再生は実に俊敏です。
つまり、普通の携帯電話で画素数が1000万画素を超えているから優れていると考えるのは、単にスペックだけでの判断にすぎません。
実際に1000万画素の画質を再現するには、それに耐えうるレンズと面積の大きな撮像素子が必要なわけです。
携帯電話ではそれを実現するのは困難です。
なぜなら携帯電話自体が小さいからです。大きなレンズも大きなサイズの撮像素子も載せることはできません。
したがって画素数の多い小さな撮像素子を採用することは必然的に低画質化と動作の緩慢さを招きます。
それでも多くのユーザーは画素数が多い方が高画質だと思い込んでいます。
500万画素よりも1000万画素のカメラの方が売れます。
メーカー側も、売れる以上、高画素の製品を作らざるを得ません。しかもコスト削減のためにレンズも撮像素子も巨大化できないままです。
そうやってますます画質が悪化します。
まさに悪循環でした。
どのメーカーも小さな撮像素子で画素数の多い携帯電話を作っていった結果、店頭からは比較的高画質で高速な携帯電話は見あたらなくなってしまいました。
これはユーザーに取って不利益です。
なので、少しでもこういう知識を身につける人が増えて、画素数競争ではなく画質競争が起こり、いろんな携帯電話で手軽に高画質な思い出を残すことが出来る、そんな日が来ればいいなと思います。
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