閑古鳥の鳴くビル
ボクは転職経験や転勤経験、出向経験が多く、銀行員時代に、とあるオフィスビルの管理業務の会社に在籍したコトがあります。
そのビルはオフィスビルで非常に大規模なんですが、竣工した時期と立地が悪く、とにかく空室が多いビルでした。
景気の良いバブル期に設計・着工され、景気の悪いバブル崩壊後に竣工したので、とにかくカネのかかったぜいたくなビルで、投資を回収するには高額な賃料を設定する必要があったんですが、オープン時には不景気の時代に突入していたため、とにかく部屋が埋まらなかったんです。
しかも交通の便も悪く、こればかりはどうしようもありません。
実際、入居率は半分ほどでした。
つまり、半分は空室。
そんなビルにボクが銀行員として出向しました。
苦肉の賃貸契約
賃料が高いので、入居者が集まらない。
なら、賃料を下げれば良いんですよね。
賃料を下げてしまうと、その分の収入は減りますが、そもそも入居が無ければゼロなので、それよりはマシです。
なので、例えば元々、坪単価が1万円だったのなら、坪単価を5000円にすれば集まるのでは?
と言う話です。
そこに罠がありました。
例えば、ボクがあなたに、500万円の高級車をプレゼントするとしましょう。
それはそれで良いコトなんですが、実はそれ、贈与です。
なので、贈与税が発生します。
500万円のクルマをもらって贈与税を払うには、別途、おカネを用意する必要がありますよね。
これが大変なんです。
だったら、そのクルマを売ってしまえば良いのですが、それだと何のためにクルマをあげたのやら。
まあ、それで払えるならそれでも良いとしましょう。
結局、贈与税を払った残りが、実質のプレゼントですよね。
贈与税ってあらゆる税金の中でも税率が高いので、そこそこの負担なんですよね。
なぜこんな話をしたかと言えば、高い賃料の部屋を安く貸してしまうと、それは、贈与と見なされてしまうんです。
例えば、元の賃料が100万円なのに、その部屋を50万円で貸してしまうと、実質的に、50万円をプレゼントしたのと同じコトですよね。
入居者は贈与税を払わなきゃならないんです。
法人なら贈与税はありませんが、それに相当する税金は発生します。
そんなややこしい貸室に入居者が集まるはずも無く。
そこで、ボクの先輩たちは、苦肉の策を使っていました。
次の図の通りです。
部屋の形はこのように縦長の長方形なんですが、賃貸面積は、ピンク色の部分だけにするんです。
つまり、入居者はピンク色の部分しか使ってはいけないのです。
半分の面積しか借りていないのだから、賃料はもちろん半分。
しかも贈与にもなりません。
なるほど!
とボクは思ったでしょうか。
もちろん思いません。
それよりも、
ドア側では無く向こう側かよ!
と言う素直な感想でした。
入居者は窓側を使いたいのは当然の要望。
そうしないと入居してくれません。
だからこのようになっているのです。
理屈の上では、部屋の手前の部分は使っていないと言う話なので、入居者は、ドアから入って、ジャンプして向こうに着地する日々ですね。
デスクやチェアやコピー機などはどうやって向こうに置いたんだよ!
と言うツッコミは心の中に留めるという暗黙のルール。
これにより、きちんと税務署のツッコミも回避しつつ、空室を埋めるコトにもそこそこ成功。
実際、このタイプの賃貸借契約を結んでいる部屋がたくさんあったんですから。
いっそドアから縦に細長く貸す方法もあったのでは?と思いますが、細長すぎて使い勝手が悪く、やはりこの方法しか無かったようです。
実際には、ジャンプなどしているはずも無く、退去時の原状回復費用も、手前の部分にまで当然のように発生するんですが、それが発生してしまうと、部屋全体を貸していたコトになるので、退去のたびにトラブル。
ボクがこんな契約を経験したのはそのビルだけなんですが、世の中的にはどうなんですかね?
同じようなコトをしている人、いますか?