不老不死の実現性
人間の身体は魔法で動いているのでは無く、あくまでも自然界の物理法則で動いています。
構成要素も、魔法の物質では無く、あくまでも、炭素などのありふれた物質です。
リンゴが落ちるのも、雨が降るのも、人間が歩くのも、すべて同じ自然界の物理法則に従います。
人間の生存メカニズムもほぼ解明されていて、それに従えば、不老不死も可能です。
老化原因や病気発生原因を抹消すれば良いわけですから。
ただ、理論上は可能でも、その困難性が高いだけです。
困難な理由は、技術的要因やコスト要因などがあります。
昔、NASAは月面着陸を果たしましたが、その後は実現していません。
月面着陸そのモノを疑問視する人もいますが、技術的には十分可能ですし、月面着陸した証拠も残されているので、疑問視するコトに重要性はありません。
それでも、それ以来実施されていないのは、コストパフォーマンスの問題ですね。
実施には莫大なコストがかかりますが、それに見合うリターンがなかなか見いだせません。
NASAとしても、そんなプロジェクトに割く予算は無いわけです。
人間の不老不死の実現も同様で、莫大なコストをかければ実現できそうですが、例えば仮に1000兆円かかると言われれば、事実上は実現できないのと同じです。
毎日、タクシー通勤すればラクですが、そんな費用は見合わないので、多くの人は電車通勤するわけです。
技術的に実現可能かどうかとコスト的に可能かどうかは別の話ですね。
不老不死が実現したら
もし、技術的にもコスト的にも不老不死が容易に実現するとしたら。
これはもう非常に大きな問題を抱えます。
不老不死の定義にもよりますが、ここでは老衰死や病死が無いとしましょう。
細胞の活動から、老化原因や病気発生原因を取り除いたわけです。
つまり、人が死ぬには事故死しかありません。
そうなると、いったん人が誕生すると、永遠に生き続けます。
人類の誕生ペースと事故死ペースを比較すれば、誕生ペースの方がずっと速いため、人口増加が加速します。
例えば、2人のカップルから2人の子供が生まれるとしたら、2人の子供からは4人が生まれ、4人からは8人、8人からは16人と、指数関数的に増加します。
増加率が増加するのです。
当然ながら食料の生産が追いつきません。
なので、人間の大半の死因が餓死となります。
何せ、事故死しなければ死ねないのですから。
さっきも書いたように、人間の身体は魔法で動いているわけではありません。
例え不老不死で生きているとしても、体内にエネルギー源が取り込まれないと、動けなくなります。
餓死は病気では無いため、不老不死でも起こり得ます。
よって、人類の死因の大半は餓死となります。
これは老衰よりずっと苦しい生き方、死に方です。
また、そんな世界なので、食料の争奪戦、恐らくは戦争になります。
何もしなければ確実に餓死。
戦争すれば、負ければ死にますが、勝てば生き残れます。
であれば、戦争をしない選択肢は無くなるわけです。
ここまでのカンタンな推測だけでわかるのは、不老不死の世の中では、食料争奪のための戦争が活発に起こり、食料生産能力以上の人口は維持できないため、自動的にその水準に人口が保たれ、大半は餓死。
あるいは、口減らしのために事故死に見せかけた犯罪が多発。
それが不老不死実現後の世の中です。
動物がカロリーを摂取して生存する構造である以上、不老不死であっても永遠の生を維持するのは難しく、むしろ殺伐とした世の中になります。
医学の進歩は生物としての人間に幸福をもたらしますが、人間社会に幸福をもたらすとは限らないのです。