KDDIの訴訟の行方
みなさん、こんにちは!
B-CHANです。
宮崎県延岡市でKDDIが建てた携帯電話の電波基地局アンテナの周辺住民が体調不良になり、KDDIを訴えている裁判を知っていますか?
携帯電話基地局の電磁波で健康被害?住民がKDDIを提訴 携帯業界に大打撃の可能性も | ビジネスジャーナル
一審では原告の請求が退けられましたが、二審でも住民の控訴が棄却されました。
携帯基地局と健康被害、2審も因果関係認めず : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
単純な考えをすれば、
KDDIが建てたアンテナが原因で体調不良になったのに、なぜ訴えが通らないんだ!
となりそうですが、実は、論理的にはおかしいんですよ、それ。
ボクはこの非天マザーで、
- 因果関係
- 相関関係
を誤解している事例について何度か書きました。
今回の事例もわかりやすいので説明してみます。
ある事件の現場にいたケース
例えば、新宿で強盗事件が3件起きたとします。
あなたはその3回とも、同じ日に新宿にいました。
3件の事件当日に3回とも事件と同じ新宿にいたあなたは、事件の犯人だと断定できるでしょうか?
もちろんできませんよね。
なぜなら、3回とも同じ現場にいたのは偶然である可能性があるからです。
しかも3回とも新宿にいた人は他にもたくさんいるでしょう。
あなたを犯人と断定するためには、他の人たちが犯人だという可能性を排除する必要がありますよね。
あなたがもしホントに事件を起こしたのなら、あなたと事件の関係は、因果関係になります。つまりあなたが原因で事件が結果ということです。
しかし、たまたま3回とも事件と同じ新宿にいたというだけなら、それは相関関係と言います。統計的に、事件現場とあなたがいた場所が一致していたということです。
因果関係を認めるには他の原因を排除する必要がある
この新宿の事件の例では、他の人が犯人である可能性が残っているので、あなたが犯人だと断定してはいけないですし、できません。
あくまでも、あなたが犯人である「可能性がある」だけです。
推測であり断定ではありません。
事件当日に現場にいた他の人すべてが犯人では無いと証明できた時点で初めて、あなたが犯人だと断定されるわけです。
KDDIのアンテナ
KDDIのアンテナの周囲で体調不良の人がいる件も、まったく同じ事が言えます。
KDDIのアンテナが体調不良の原因だと断定するためには、他の可能性が全くない状態、つまり、他の可能性を排除する必要があります。
例えば、耳鳴りや頭痛や鼻血は、携帯電話のアンテナの無い地域の人でも起こりますし、携帯電話のアンテナの無かった時代の人でも起こっていました。
なぜなら、耳鳴りや頭痛や鼻血の原因は携帯電話のアンテナ以外にもいろいろあるからです。
延岡市のケースでも同じで、住民の体調不良の原因はアンテナ以外にもいろいろ考えられます。
KDDIがアンテナを建てた地域の住民が、たまたま他の原因で体調不良になった可能性もあるということです。
複数の原因が考えられる以上、KDDIのアンテナが原因であると断定はできないのです。
つまりアンテナと体調不良は因果関係では無く相関関係であると現時点では考えられるわけです。
KDDIのアンテナが建った場所と体調不良が発生した地域がたまたま一致したという考え方です。
ここで誤解しないで欲しいのは、ボクは、KDDIのアンテナが原因では無いと言ってるのでは無いということです。
アンテナが原因である可能性ももちろんあります。
ただし他の原因である可能性もあるわけです。
あくまでも複数の可能性があるので、KDDIのアンテナが原因であると断定するわけにはいかないのです。
新宿の事例で、他にも多くの人が新宿にいたのに、あなたを犯人だと断定できないのと同じです。
複数の可能性がある中で、推測で、そのうちのひとつを原因だと決め付けるのは、やはり判決としてはおかしいのです。
なので、今回の判決は妥当としか言えないのです。
大企業・大スポンサーは関係無い
今回の件を多くのマスコミが批判しないのは、KDDIが大企業であり、たくさんのオカネをマスコミに払ってくれる大スポンサーだからと言っている人もいます。
しかし、それは全然関係無いのです。
なぜなら、まったく同じ考え方は小企業にも個人にも当てはまるからです。
例えば、ボクという個人が、自宅の庭にミカンの木を植えたとします。
その頃から隣人が風邪を引きやすくなったとします。
では、ボクがミカンを植えた時期と、隣人が風邪を引きやすくなった時期が一致するので、隣人の風邪はボクのミカンが原因だと断定できるでしょうか。
違いますよね。
風邪を引きやすくなった原因は他にもいろいろ考えられます。
食生活が変わった、体力が衰えた、季節が寒くなったなどなど。
ボクがミカンを植えたタイミングと隣人が風邪を引きやすくなったタイミングがたまたま一致しただけという可能性も十分にあります。その場合は因果関係では無く相関関係です。
このように、複数の可能性がある段階で、風邪はミカンのせいだ!と断定することはできないのです。
「大企業だから」という言い方は間違いで、この考え方は普遍的に適用できます。
訴訟は誰でもできる
もちろん国民には訴訟する権利があるので、訴訟は自由にできます。
延岡の住民がKDDIを訴えるのも自由ですし、隣人がボクを訴えるのも自由です。
しかし、これらのケースで原告が裁判に勝つのに必要なのは、相関関係では無く、因果関係の証明です。
KDDIのアンテナが体調不良の原因だと訴えて、裁判に勝つには、KDDIのアンテナ以外の原因では無いと証明する必要があります。つまり、絶対にKDDIのアンテナが原因であると証明しなければならないのです。可能性があるというだけでは勝てません。
もし、可能性があるだけで罪を負うのなら、日本中の国民が推定有罪だらけになります。
事件と同じ日にたまたま新宿にいただけの人も犯人扱いされてしまう危険があります。
そうなれば、もはや法治国家の体をなしません。
なので、きちんと因果関係を証明しなければならないという考え方は、国民を守るためにあるのです。
もちろん、体調不良に悩む住民の人々はとても気の毒だと思います。
気の毒ではありますが、だからといって推定だけで断罪して良いということにはなりません。
今後、最高裁に持ち込まれる可能性もありますが、住民側が勝つためにやらなければならないのは、他の原因では無く、絶対にKDDIのアンテナが原因だという因果関係の証明です。
推定有罪は住民のためにならない可能性もある
もし仮に推定有罪、つまり、他の可能性を残したままKDDIのアンテナが原因だと言う判決が下りたらどうなるでしょうか?
もちろんKDDIはアンテナを撤去する必要があります。
しかし、他の可能性が残ってるということは、もしかしたらKDDIのアンテナが原因では無かったという可能性もあるということです。
そうなると、せっかくKDDIのアンテナが撤去されても、体調不良はもちろん治りません。
苦労して訴訟して勝訴しても、体調不良が治らなければ何の意味も無いですよね。
だからこそ、可能性論で話を進めるのではなく、きちんと原因を断定する必要があるのです。
ボクも頭痛持ちで、そのツラさを良く知っているので、延岡市の住民の方々の体調不良が治るように進むことを祈ります。
おまけ
相関関係の強さを表すには相関係数という数値を使います。
相関係数は、-1から1の間です。
相関係数が1なら、まったく同じ動き、相関係数が-1なら、まったく逆の動きだということです。
相関係数が0なら、2つは無関係です。
例えば、A社の株価が値上がりしたら常にB社の株価も上がり、A社が下がったら常にB社も下がったのなら、A社の株価とB社の株価の相関係数は1です。
A社とB社が逆に動いたら相関係数は-1。
両社に特に関係性が見られなければ、相関係数は0です。
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